石川イノベーションスクール ニュース

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卒業生のための特別講義トークセッション『価値とは何か?』前編

 

 

石川イノベーションスクールの生徒と理事の交流は卒業後も続きます。

今回は卒業生たちの学びの機会として、

理事メンバーによるディスカッションスタイルの特別講義を開催しました。

討議のテーマは「価値」について。

イノベーティブなビジネスモデルを構築するうえで、

「価値」というものの理解を深めることはとても重要です。

「価値とは何か?」を主題に話し合うことは、

卒業生たちの現在の活動にもヒントになると考えて実施しました。

ディスカッションの内容を前編と後編に分けて公開します。

 

【理事メンバー】

喜多甚一/ 株式会社ビーイングホールディングス 代表取締役

船崎外茂子/株式会社トモコ・メディカルエージェンシー 代表取締役社長

田野口和矢/株式会社サクセスブレイン 常務取締役

宮川真也/株式会社ヴォイス 代表取締役社長

三谷忠照/三谷産業株式会社 代表取締役社長

 

 

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製品やサービス自体に価値があるのではなく、

価値をつくるのは、利用する人である。

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宮川/卒業生のみなさん、おつかれさまです。今回ディスカッションしたいのは「価値について」です。なぜこのテーマかというと、先日あるビジネスパーソンと話していたら「アフターコロナは価値転換のチャンスだよね」っていうんです。それはもっともな話ですけど、その人は「何が価値で、それをどうすることが価値転換だって考えているんだろう?」と思ってしまった。「価値」はビジネスシーンで非常によく使われる言葉ですが、いったいどれだけの人が理解しているのか?

 

田野口/石川イノベーションスクールの1年弱の活動の中でも「価値」は重要なキーワードでした。とくにビジネスモデルキャンバスをベースに、「価値提案(VP)」と「顧客セグメント(CS)」の話をずっとしてきましたよね。なぜ「価値提案」と「顧客セグメント」の関係にこだわって指導してきたかというと、「価値」って単体で考えたらいけなくて、相手がいてはじめて成り立つものだからなんです。だから「誰に何を提供するのか?」の「誰に」のところが定まらない人は、ビジネスモデルを描けなくてずっと右往左往していた。価値と顧客のところがカチッと定まった人から、ビジネスモデルがどんどんかたちになっていきましたよね。

 

喜多/製品やサービスそのものに価値があるというより、価値をつくるのは利用する人なんだということですね。利用者がどんな目的で利用するのかによって価値創造が成される。製品やサービスが存在するだけでは価値は創造されないわけです。たとえば雪すかしをするときに使う「ママさんダンプ」と「スコップ」はどちらが価値がありますか?と問われても、それは状況によりますよね。新雪だったら一度に大量にすかせる「ママさんダンプ」がいいけど、固まってしまった雪だと「スコップ」のほうがいい。じゃぁ「ママさんダンプ」が悪いのか?「スコップ」が良いのか?という話じゃなくて、結局は利用者がどのように使うかによって価値がつくられるということなんですね。

 

宮川/利用者には目的がある。製品やサービスというのはそれに対する手段ですね。

 

三谷/うちの会社の話でいうと、たとえば塩酸や硫酸をタンクで輸送する事業があるんですけど、水より安いんですよ。そういうものでもお金を出してもいいと思ってくれるかどうかに「価値」を探るヒントがあると思いがちなんですけど、やはり塩酸や硫酸を届けることは手段でしかない。化学品をおさめるプロセスの中でお客様の困りごとを聞いて、別の製品やサービスを通じて、何かしらの価値を届けたいんです。いわば塩酸や硫酸はチャネルづくりのようなものです。

 

 

宮川/いまの塩酸や硫酸の話は、ビーインググループでいうと「モノを運ぶ」という行為にあたる?つまり、物流サービスは手段ですか?

 

喜多/そうですね。従来の物流サービスというのは、物理的なサービスを指していました。輸送、保管、包装、荷役、流通加工、情報管理・・といった6つのカテゴリーが物流サービスといわれるもので、これらを物理的に提供することが物流業者の価値とされてきたんです。しかしながら昨今は同じようなことができる会社がたくさん存在する。そうして比較できるものがいっぱい出てくると、差別化するのが難しくなってくる。つまり、かつては物理的サービスを提供することがひとつの価値だったけど、これからは物理的サービスはあくまでも手段として、それを超えたところにある「かたちのない価値」を提供することが、自らがユニークな存在としてあり続けるために不可欠なんですね。

 

宮川/物理的なもの…目に見えるサービスで勝負してしまうと、代替するものが出てくる。すぐに過当競争になる。

 

喜多/ええ。みなさんの業種や業界もそうだと思うんですが、似たようなサービスを展開する会社が増えて常態化すると、価値が薄くなっていくんです。すなわちコモディティ化するということですね。製品やサービスの物理的な側面だけで勝負すると、特許などの権利で守られていない限りは価格競争に巻き込まれていってしまう。売上は大きくなっても儲からないという状況にもなりますよね。

 

三谷/辞書的な意味でいうと、希少価値という言葉があるように、価値は“得たいもの”“得難いもの”という見方もできる。「自分たちが得難いものになっているか」ということには敏感でなければいけないですね。

 

宮川/船崎さんの会社も得難い存在…ユニークな会社ですね。

 

船崎/誰もやってないことをやった、という意味ではそうかもしれません。お薬屋さんって病院の隣にありますよね。患者さんはそこに立ち寄ってお薬をもらって帰るわけです。でも、病院に行けない…お薬屋さんに行けない人がいて、その人たちのために在宅医療というものが始まりました。ところが、お薬を患者さんにお届けする薬局はなかった。それを日本で最初にやったのが私たちの会社なんです。在宅医療はドクターが往診というかたちで患者さんのもとに行くのに、お薬は薬局に取りに行くの?もしくは診察前から往診するドクターが準備をして持っていくの?えっ、診ていないのにお薬を用意して渡すっておかしくないですか?私たちが始めるまでは、そういう問題を解決する専門薬局はどこにもなかったんです。

 

宮川/問題を発見して、新しい価値を提供するための事業としてスタートしたんですね。

 

船崎/視点を転換することによって潜んでいた問題、潜在ニーズを発見できた。「お客様は来るのではなく、お客様は待っている」。そういう視点を持てたのがよかったんだと思います。

 

 

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「ナニナニ屋さん」とラベリングしてしまうと、

その会社の提供している価値が見えなくなる。

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宮川/田野口さんの会社も、提供している価値は、いわゆる税理士サービスではない?

 

田野口/そうです。一般的な税理士事務所は申告書を作ったり決算業務を請け負う。それは物理的サービスなわけです。うちの会社はマネジメントドクターという言い方で独自のドメインを持っていて、クライアント企業が悠々自適に存続するためのドクターでありたいと考えている。そうあるためには会社の財務的な問題だけじゃなくて、たとえば人が辞めていくとか、商品が売れないとか、いろんな問題を解決しなくてはいけない。それらは税理士業務だけでは解決できないんです。だから税理士法人と株式会社サクセスブレインというコンサルティング会社の両輪でやっているんです。すると、実際にうちのほうが他の税理士事務所より高い価格だとしても依頼がある。お客様が真に求めているのは申告書をつくる代行サービスではなくて、うちの会社が抱えている問題をなんとかしてほしい、と。つまり、誰のどんな問題を解決するのかっていうことをブラッシュアップして事業化することが、ユニークな存在になるために大事なんだと思います。

 

喜多/とくにスクール活動の後半戦は、みなさんのビジネスモデルを「もっとブラッシュアップしよう、もっと削ろう、研ぎ澄まそう」と指導することが多かったと思うんだけど、それはどんな目的を持った人に何を提供したいのかがはっきり見えてこないからなんですね。たくさんの人を対象にしすぎていたり、たくさんの目的を持っている人をターゲットにしてしまうと、価値がボヤけてしまうんです。はい、ここでみなさんに質問です。万能枝切りバサミを持っている人いますか?持ってないでしょ?「万能」と言っているものって大抵使えないですよね?(笑)自分たちの製品やサービスが万能だと考えるのではなく、どんな目的をもった人に対するサービスなのかをはっきりさせて追求しなくちゃいけないんです。そうやってひとつの柱が出来てから、その周辺のお客様を巻き込んでいく。実際にやってみたら最初は想定していなかった顧客層が食いついてくることもある。そうしたら事業自体をピボットさせて、新しいお客様に向けたサービスに転換していく。

 

 

船崎/価値がボヤけてると、けっきょくどんな顧客ターゲットを標的にしても刺さりませんからね。今日集まっている卒業生のみんなも、事業が軌道に乗る前段階の人は、「私のやっていることはニーズにチクっと刺さっているのかな?」ということをあらためて見つめてみたらいい。きちんと刺さるために針を研ぎ澄ませていく、価値を削ぎ落としていく。スクールで学んでいるときはビジネスモデルキャンバスやプレゼンシートの上で削ぎ落としたんだけど、いざ実践の場に立っても、さらに削ぎ落としをやっていかなくちゃいけないんじゃないかなと思います。

 

宮川/研ぎ澄ますことをためらうのは、総花的にあれこれやらないとお客様をつかまえられないって考えちゃうからなんですよね。

 

喜多/釣りでいうと、最初にサビキ釣りから入っちゃう。なんでもいいから釣りたい、と。けっきょく鯵か鯖しか釣れないわけですけど、まぁそうやって最初は万能枝切りバサミに走ってしまう。ターゲットが絞り込まれているというのは、もう仕事が半分は終わっているようなもの。ブランディングだってそうでしょ?

 

宮川/間違いないです。ブランディングもそうですし、マーケティングもですね。誰に届けたいのかが定まれば、届ける手法は自ずと決まってきますし、アウトプットの答えも明確になります。誰をターゲットにするかによって、商品はどうあるべきかも、何をどんなふうに語るべきかも自動的に決定するわけです。まさに先ほど船崎さんの言った「刺さる」ための準備が整う。そうなれば仕事はほぼ終わったも同然ですし、結果すらほぼ確定しますよ。

 

 

三谷/よく「ナニナニ屋さん」という言い方をするじゃないですか。八百屋さんとか居酒屋さんとか、そういうふうにラベリングされると提供する価値が分からなくなりますよね?税理士屋さん?それって税理士サービスのようなものを売ってる会社でしょ、という先入観があるんですけど、そこじゃないところにこそ価値があるはずなんです。ビーインググループも「物流屋さん」なのかもしれないですけど、そうではない見えない部分の価値を探求している。あっ、卒業生にはたとえば「米粉屋さん」もいますね(笑)。でも、きっと米粉じゃないところに価値がある。それをどうやってかたちにしていくのかを考えることが大事なんでしょうね。

 

宮川/ブランディングの基本は企業や商品のイメージをよくすることじゃなくて、価値を見えるようにすることなんですけど、じつはよく「ナニナニ屋さんではない」という手法を用いて価値を言葉化していくんですよ。「わたしたちは八百屋ではない。本質的には◎◎である」という具合に、物理的価値で自らを名乗るのではなく、機能的価値で名乗ってみたら何屋になるんだろう?って考えていく。

 

田野口/たとえばライザップも分かりやすい例ですね。ライザップが登場したとき、すでにフィットネスのマーケットは出来上がっていた。そこに何十万円もするサービスを誰が利用するんだろう?と、多くの人が失敗すると考えていたわけですが、実際には成功している。ライザップは「うちはスポーツクラブじゃない」って言ってるんです。「三日坊主撲滅業」だと。そのビジネスモデルは、たとえばダイエットに失敗して目標を達成せずに自信喪失している人がターゲットで、マンツーマンでやることで「自分もできるんだ」と自信を取り戻す。だからスタッフは、お客様の心が折れそうなときにサポートして、最後まで目標を達成させることが仕事なんだと位置づけている。そう、ライザップのお客さんが手にするのは自信なんです。人生が前向きになる。ゴルフや英会話教室の分野にも進出するというのは「三日坊主撲滅業」だからなんです。

 

三谷/上位概念という考え方をしてみるのもいいですね。上位にあるものがわかると、価値が定まりやすくなりますね。ライザップでいうと、スポーツクラブ屋さんというところに縛られず、上位概念で考えると「三日坊主撲滅業」であり、それにしたがってサービスを多角展開していける。

 

 

<後編に続く>

 

 

特別講義トークセッションの「価値とは何か」後編は近日公開します!ぜひご覧ください!