石川イノベーションスクール ニュース

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卒業生のためのトークセッション『価値とは何か?』後編テキスト

 

スクールの卒業生たちの学びの機会として

ディスカッション形式の特別講義を開催しました。

今回はその後編を公開します。

テーマは引きつづき「価値とは何か?」です。

「価値」というものを考えるヒントを

理事メンバーがいろいろな切り口から話し合いました。

 

【理事メンバー】

喜多甚一/ 株式会社ビーイングホールディングス 代表取締役

船崎外茂子/株式会社トモコ・メディカルエージェンシー 代表取締役社長

田野口和矢/株式会社サクセスブレイン 常務取締役

宮川真也/株式会社ヴォイス 代表取締役社長

三谷忠照/三谷産業株式会社 代表取締役社長

 

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<トークセッション「価値とは何か」前編は、こちらからご覧いただけます>

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自分たちのサービスはお客様にどう使われているか?

それをよく観察した結果、ビジネスが転換していく。

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宮川/「ナニナニ屋さんではない」といえば、スクール第1期生の志賀さんがやっている「ウフフドーナチュ」も、ドーナツ屋さんじゃないですよね?今日も卒業生として参加してもらっていますけど、実際に事業をやっていて「価値」について思うことはある?

 

志賀嘉子さん(第1期卒業生)/やっぱり、自分たちのやりたいことが伝わるようになってから事業が加速しましたね。それが価値が伝わるようになる、ってことでしょうか?私たちの場合は「ママたちが子供のためにつくっているドーナツ」ということを明確に伝えられるようになったのが大きかったです。それと、ママたちが楽しく働ける場所を提供したいという会社の考え方も知っていただいて、全国に応援してくれる人たちがすごく増えました。

 

三谷/商品の価値もそうですが、会社そのものの考え方を価値として感じてくださっている方がたくさんいて、その結果、商品を買ってくれる人が多くいるんですね。コアなファンの方って、そういう文脈の部分への共感がありますよね。それも価値だとすれば、もっとママさんたちがどんなふうにドーナツをつくっているかを見てもらえるようにしていくことが、価値の見せ方としていいんじゃないかと思いますね。

 

宮川/「ウフフドーナチュ」がユニークなのは、お客さんをママに絞り込んでメッセージしているところですね。でも、実際はおじさんたちも買ったりしていて、たとえば東京駅とか品川駅で仕事帰りの人たちの手土産として求められたりしている。つまり、ターゲットを絞り込んで価値を研ぎ澄ました結果、あれよあれよと顧客層が広がっていった。その現象って、勇気をもって絞った結果だと思うんです。誰にでも好かれようとしたら、けっきょく誰からも好かれないという。

 

志賀さん/価値とターゲットを絞り込んだ結果、私たちのコンセプト…私たちのやりたいことの伝わり方が変わりましたね。たとえばロゴひとつとってもそうなんですよ。ロゴを見たお客様が必ずいうのが、「あ、これママが子どもに作ったってことね」って。みんな答えを知ってるんですよ。私だけ知らなかった(笑)。

 

 

三谷/おじさんたちが手土産で買うっていうのは、家族サービスができない罪滅ぼしと言いますか、そこが仕事帰りのおじさんたちには価値になっているというふうに感じますね。

 

宮川/そこで「エヘヘドーナチュ」というブランドを提案してるんですけどね、なかなか志賀社長がウンと言ってくれない(笑)。

 

志賀さん/まだ早いです(笑)。

 

喜多/やはり、利用する人によって価値が創造されていくということですよね。たとえばスマートフォンのアイコンや機能を全部使っている人ってなかなかいないでしょ?一人ひとりの使い方によってスマホの価値が創造されている。スマートフォンという製品には、電話やパソコンやナビシステムといったいろんなものを複合した価値というのはあるんですけど、ユーザーはそれぞれにアプリをダウンロードして自分の使い方をしている。つまり、人によってぜんぜん違う価値が創造されている。こういう現象はよく起こるから、サービスを提供している人は、お客様がそれをどのように使っているかをよく観察したほうがいいと思います。

 

 

船崎/最初はユニークな存在としてスタートできても、やがて他が真似をしはじめますからね。私の事業もそうでした。だからお客様が離れていかないように、お客様をよく観察して、潜在ニーズを見つけるようにしていきました。放っておくと、初めはブルーオーシャンだったのに、いつのまにかレッドオーシャンになっているというケースはありますよね。だから事業者は、お客様をよく見て自分たちの提供価値をつねに探し続けなくちゃいけない。

 

喜多/お客様がどう利用しているかを観察することで、より自分たちの価値を追求していけるんです。そこからターゲットを広げていったり、方向転換をしてビボットしていくこともある。「ウフフドーナチュ」でいうと、ママが子供のために…という価値をベースにして、違うものも販売していったり、違うビジネスに転換することもできる。

 

宮川/お客様を観察する、というのは、お客様の満足度を測ることとは違いますね?

 

喜多/満足度ではないですね。たとえばスターバックスでいうと、コーヒーに満足してくれてるかな?ということではなくて、スターバックスという場所がどんなふうに使われているかを観察する。お客さんはみんなコーヒーを飲みに行っているというより、待合わせをしたり、くつろいだり、本を読んだり、利用者によって違う使い方をしている。ひとつの顧客層からサービスがどういうふうに広がっているかを観察するんです。ところがビジネスモデルを考えるときに、最初からそれらの使われ方をすべて想定しちゃうんですね。初めはこれをよくやっちゃうんですよ。だからとっちらかったものになるし、最初から全部用意しておけばスターバックスみたいになるかというと、そうはならないんですね。

 

田野口/たしかに価値というのは、じつはさまざまある。そのたくさんの中からターゲットに対してどれをピックアップするのかが大事なのかなと思いますね。今日の冒頭にお話しした「価値提案」と「顧客セグメント」のところがカチッと定まる、というのはそういうことです。

 

宮川/お客様を観察して、コミュニケーションを深めて、そこから新しいサービスやビジネスを生み出して価値提案していくというのは、三谷産業のお家芸ですよね?

 

三谷/うちは多岐にわたっていろんな事業をやっているので、何を提供しているのかわからなくなってくるんですけど(笑)。でも、創業のころから遺伝子として組み込まれている話があって、約90年前、石炭を販売してたんですね。朝鮮半島や九州で採掘した石炭をメーカーさんが石川県に持ってきて、それを我々がディストリビューションするためにできた会社なんですけど、同じことをやっている同業他社さんもたくさんあったんです。でも、いまも生き残っている会社ってわずか2〜3社なんですよ。その当時、うちはお客さんから「10トン持ってきてくれ」と言われても「6トン」しか持っていかないような会社だったんです。何をやっていたかというと、じつは「計算」なんです。いまで言うエンジニアリングだと思うんですけど、創業者はお客様に10トン持ってきてくれと言われてホイホイ持っていくのが気持ち悪かったようで。お客様の生産現場や生産計画や生産設備を見て、「これ以上石炭を投入してもエネルギー効率は上がりませんね」と。だから「6トンで充分ですよ」という。計算に絶対の自信を持った上で「足りなくなる前にまた来ますから、いまは6トンにしましょう」とお客様に提案するんです。そもそも石炭を保管するためには広い場所が必要だし、取り扱いも非常に面倒だし、余剰に買うということは過分に投資させることにもなる。そういうものをトータルで見て最適化していく。そこに価値を見いだして、お客様に提供することで、いまも生き残っているというわけです。

 

 

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必要なものを発見して、必要なものを満たしていく。

結局「誰のどんな問題を解決するの?」という話になる。

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宮川/そのDNAが現在もさまざまな事業に組み込まれているんですね?

 

三谷/90年の歳月を経て現在はコンピュータを提案したりしていますけど、先述の「ナニナニ屋さん」が変わっても、考え方は一緒だと思っています。お客様から「在庫管理システムを見積もってきてくれ、4社くらいに相見積もりをとるけど」と言われたりして、他社さんはそれぞれ在庫管理システムの見積もりを持ってくるんですけど、うちは「10トンくれと言われてもそのまま10トン持っていったらダメだよ」の精神を宿していて(笑)。本当に在庫管理システムでいいのかな?と考える。よくよくお客さんの生産現場を見て在庫が生まれる現場を見ていくと、在庫管理の方法は悪くない。じつは生産しすぎて在庫が増えている。どうやらそこが問題なので「生産管理システムを検討すべきじゃないですか?」と提案する。こういう仕事の仕方というのは昔から変わってないんですよね。それはたぶん石炭を販売していたときに研ぎ澄ませたから現在も実践できていることであって、いまゼロベースでエネルギー・建築・情報システム・化学品といったさまざまな事業を同じ考え方でやれるかといったら、無理だと思うんです。ひとつの事業で方法論が研ぎ澄まされていって、そこから事業が多角化していった。そういうひとつのコンセプトや社風で束ねていけるというのが、いまなお多彩な事業を推進できている理由なのかなと思うんですね。

 

宮川/いまのエピソードを聞いて思うんですが、多くの人は「お客様のニーズに応えます」というときのニーズを、「要望」って意訳してると思うんです。ニーズは「必要」と訳さなくちゃいけない。三谷産業はずっと「必要」に応えてきたんじゃないですか?

 

三谷/ご要望というときもありますが、それは御用聞きをするときですね。「ニーズ」と「要望」は使い分けています。よりわかりやくするために「真のニーズ」と言ったりもしますけど、まぁお客様の「これほしい」「これ買いたい」というセリフを信じないという会社ではあるので(笑)。たしかに「ニーズ=必要」という解釈ですね。

 

喜多/「必要を発見し、必要を満たす」ですね。三谷産業のエピソードは、うちとも共通点がありますね。お客様は「物流コストを下げる提案を持ってきてくれ」とおっしゃるけれど、その提案を本当に求めているかというとそうではなくて、「企業として利益を最大化するための提案を持ってきてくれ」ということなんですね。そうなると、お客様が店舗でやっている仕事をできるだけ物流センターで請け負って、お客様の手間がかからないように加工して持っていく、というのが本質になる。つまり、物流コストをある程度かけることによって、店舗の運用コストが大きく低減される。だから物流センターというものが存在するんですけど、最近はそこが本末転倒になってきている。極論を言うと、「物流コストは無料にすることはできますよ」と。物流センターを介さず、「すべて問屋さんに200店舗をまわって配送してもらえば無料になります」と。するとどうなるか。1店舗当たりにだいたい40〜50台のトラックが毎日入れ替わり立ち替わりやってきて、それに対応するお店の店員さんの数は3倍になる。「物流コストを無くせば店舗運営コストは何倍にも膨れ上がって、まぁ経営は半年も持たないでしょうね」という話をすることになる。だからこそ、御用聞きのような仕事をするのではなくて、そのお客様が本当に必要なものを発見して、見つけた必要を満たすものを提供するというのが大事なんでしょうね。

 

 

田野口/本当に必要なものを発見するという話で、クレイトン・クリステンセンの著書「ジョブ理論」を思い出しました。ミルクシェイクの話が有名ですね。あるファストフード屋さんが業績アップのためにコンサルタントに仕事を依頼したけど売上が伸びない。でも、クリステンセンがやると売上がアップした。なぜか?通常のマーケティング手法で顧客調査をしたら、40歳代の男性がミルクシェイクを買っていることが分かった。で、最初のコンサルタントは味を男性たちがもっと好みそうなものに改良した。でも、「ジョブ理論」は違う。クリステンセンが顧客にヒアリングしたところ、40歳代の男性は平日の朝の通勤時と土日の夕方によく買っていることがわかった。平日の朝は通勤時の長時間のドライブのおともにミルクシェイクがいいんだということが見えてきたんです。コーラはすぐなくなるし、ハンバーガーは汚れる。その点、ミルクシェイクは長時間もつし、お腹も満たされるし、汚れもしない。そういうジョブを発見したんですね。そこで解決策として、もっと粘度が高くて量も多いものにしようというふうに改良していったんです。一方、土日の夕方になぜ買われてたかというと、お父さんが子供にミルクシェイクを買ってあげていた。“いいお父さん”としては子供にチョコレートはあげられない。夕食前にチョコをあげたら奥さんに怒られるから(笑)。その点、ミルクシェイクは健康にもよさそうでOKだ、と。となると、子供が飲むものとしてサイズなどを検討しようといった話になっていくわけですよね。

 

宮川/ちなみに「ジョブ理論」の“ジョブ”とは、商品を購入する決定要因のことですね。

 

田野口/そうです。そして結局は「誰のどんな問題を解決するの?」ということです。そこが明確じゃないと「ジョブ」の話にはならない。スクールの活動の中で「削れ、削れ」と指導してきたのも、ジョブがいっぱいで、いったいどんな価値を提供したいのかがわからなくなっているからなんですね。ウフフドーナチュが売れたのはジョブが明確になったんでしょうね。さきほどの三谷産業の話でいうと、ジョブは「最適化」だと思うんです。そこが一貫しているから事業が多角化していってもブレないんだと思うんです。「ジョブ理論」という本はスクールでもみんなに紹介しましたけど、卒業してそれぞれがビジネスシーンで活躍しているいまこそ読み返してみてほしいですね。そこに価値とは何かを紐解くヒントもいっぱいあると思います。

 

(了)

 

 

理事メンバーによるトークセッション終了後は、

参加した卒業生たちの質問に対する応答や、現在の各自のビジネスに関するアドバイスを行いました。

理事メンバーと卒業生との交流は、今回のような特別講義などを通じて続いていきます。

今回の特別講義のようなスクール活動は、また機会を見てご紹介していく予定です。ぜひご期待ください。